脳で理解する灸
脳を刺激
灸は体を温めるのにとても効果的です。体全身をポカポカに温めることもできますが、灸の熱が全身に広がっていくのとは違います。
灸の熱量で全身を温めようと思ったら足りません。透熱灸と言われる灸法の火力はこんなに微細なものです(≫気持ちのよいお灸)。これだけの熱で体を温められるのはツボを刺激しているからです。
ツボは、体の中でもとりわけ刺激に反応してくれるところです。ツボを刺激すると脳が反応します。反応パターンの詳細は未解明ですが、脳も著しく刺激されていることは間違いありません。
つまり、灸はツボを介して脳に働きかけているのです。脳がその刺激を受けて「体を温めなさい」と返しているわけです。脳の研究が進歩すること、灸の作用も見えてくると信じています(同様に鍼も)。東洋医学のブラックボックスと解き明かすのは脳の研究者かもしれません。
温める灸 − 冷やして温める
人間は恒温動物ですから、体温を一定に保とうとします。体内には血液が流れています。その血液は体温と同じで36〜37℃程度です。この血液が40℃の所に流れて行けば熱を奪い、33℃の所に流れていけば熱を与えます。血液はこのように、時には温め、時には冷やす働きを持っていると考えることができます。
冷えた足を考えてみましょう。ここでは単純に血液の流れが悪いと考えます。足そのものも発熱しているとはいえ、自ら十分な熱を作ることはできません。そのため熱を輸入しなければなりません。
たとえば、冷えた足の指先に熱を加えます。最初は「血液の代わりに温めてくれてありがとう」という程度で何も起こりません。でも、そのまま熱を与え続けると過剰な熱を逃がそうと体は必死になります。まず、発汗し熱を逃がします。さらに熱が加わり発汗では逃がしきれない状態になったら、さらに対策が必要です。
それは「血液を流して熱を奪う」という作戦です。血液を足の末端まで運ぶためには、そこまでの経路全体の血液循環を活性化しなければなりません。足の指先も大事な体の一部、体は必死で守ろうとするのです。
足の指先を冷やそうとして、流れ込んできた血液。局所では冷やすためにしっかり働きます。でも、その周囲ではどうでしょうか。もともと体温が低かったところに温かい血液が流れ込むのですから温まります。局所を冷やす目的で流れている血液は、局所以外では体を温めるように働いているというわけです。
ただし、熱すぎるお灸は体を温めることができません。全身を温められる熱には条件があります。それは「熱い」と感じるちょっと手前です。熱が弱ければ体を冷やす必要はありません。逆に熱が熱すぎると、体がビックリして自律神経の交感神経が優位になります。交感神経は血管を収縮させ、血液の通り道を狭くします。そのため末端まで十分な血液が流れなくなります。
現場でも、患者さんに熱い思いをさせることがないように鍼灸師は心がけるものです。「患者さんに嫌われないため」であると共に「熱すぎる灸は効果がない」からです。
冷やす灸 − 錯覚で冷ます
灸には温める効果がある一方、炎症部位の熱を冷ます効果もあります。この効果は脳を刺激するというより、局所の組織や細胞を活性化させることが目的です。温める灸と同様、冷ます灸にも熱の条件があります。それは「一瞬一点だけ熱い」という刺激です。治療ですから「熱い」と言っても我慢できる範囲のものです。患者さんの苦悶を鍼灸師は望んでいません。
炎症部位の一例として、捻挫があります。足首を痛めて動かすのも痛い、そんな時はどこかの靱帯が損傷し炎症しています。灸をするときは、炎症の強い点を厳選します。そこへ、瞬間的に熱を加えます。すると、体は「炎症が悪化した」と錯覚し炎症部位の修復を急ぎます。
もちろん、熱刺激が強すぎる(熱すぎる)ものでは、炎症の上に火傷を重なり症状は悪化します。ですから、熱を冷ます灸の熱量はしっかりコントロールしなければなりません。
たとえばマッサージ、軽すぎれば物足りない、強すぎれば痛いです。ちょうどよい刺激は「イタギモチヨイ」ものです。微妙な加減がマッサージにあるように、灸にもちょうど良いところがあります。その熱調節は微細なものでプロの領域です。