鍼灸とは
初心者向けに鍼灸(針灸)わかりやすく解説します。
概要
鍼灸(針灸)とは、鍼(はり)や灸(きゅう)で体のツボを刺激し、体が本来もっている自然治癒力を高める伝統医学です。鍼は専用の鍼を使用し、灸は蓬(ヨモギ)の葉から精製した艾(もぐさ)を使用します。発祥は中国で、少なくとも2,000年前には治療原則が成立しており、数千年の歴史があると思われます。発祥の詳しい経緯は未だ分かっていません。
使い捨て鍼
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太さの比較(一番下)
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蓬(よもぎ)の葉
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艾(もぐさ)
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どこに刺すのか?どこにすえるのか?
一般的には、ツボを刺激するために鍼を刺したり灸をすえます。ときどき、血管や神経を狙うものと誤解をされます。例外的にそういったケースもありますが、通常は血管や神経は避けて刺激をします。ツボは血管や神経と重なるところもありますが、別モノです。
伝統的な立場の鍼灸師はツボを対象に刺激をすることが多いのですが、伝統医学とは距離をおき、筋肉や神経の走行を指標に解剖学的な立場で考える鍼灸師もいます。その場合はツボを無視して鍼灸をします。
当院の見解
鍼灸業界では、ツボを狙うのは東洋医学的鍼灸、解剖学に基づくのは西洋医学的鍼灸と言われることが多いのですが、私はこの分類を受け入れられません。なぜなら、解剖学的な知識は、西洋だけにあるものではないからです。東洋でも人体解剖が行われおり(むしろ、西洋よりも盛んだったという意見があります)、解剖学的な知識を西洋医学と分類することは軽率だと思います。多くの関係者が指摘するように、中国や日本の医学関連の古典を読んでも、ダヴィンチが描いたような精巧な解剖学図は登場しません。しかし、解剖を行っていたことは事実であり、資料が残っていないという理由で、解剖学的な知識なく東洋医学が発展したと考えるのは無理があります。ツボと解剖学的な知識は並列関係でなく、ツボは解剖学的な知識を承知した上で築いた人体(生命活動)の認識手法だと考えるのが自然です。解剖学=構造的認識、ツボ(経穴学)=生命活動認識、と別のものを覗き見る学問です。
ツボとは何か?
ツボは正確には「経穴(けいけつ)」と言います。「ツボ」は俗称です。このツボをご理解いただくために、東洋医学が想定する人体モデルを(若干強引ではありますが)鉄道に喩えて説明します。
線路は経脈、駅は経穴、電車は血、人は気にあたると考えてください。
経脈(けいみゃく)
経脈は路線(線路)と同じ役割を担っています。体内で循環する物質やエネルギーの通り道となります。都会と田舎では路線の数が違うように人体でも密度は異なります。また、地下鉄のように深いところを走る経脈もあります。正経(正経)と言われる12本の路線と奇経(きけい)と言われる8本の路線があります。正経の12本は連結されていて一つ循環システムになっています。
また、経脈間をつなぐ線として絡脈(らくみゃく)というものがあります。これは、路線の間を走るタクシーのようなものです。経脈と絡脈を合わせて経絡(けいらく)を呼びます。経脈は人体を縦に走る特徴があり、絡脈は文字通り経脈を絡める働きをしています。
経穴(けいけつ)
経穴は駅と同じ役割を担っています。駅には電車が停まり、人が乗り降りしています。鉄道を利用するためには駅に行かなければならないように、人体の経脈を利用するためには経穴を使う必要があるのです。駅はダイヤという秩序を保つ役割も担っているように、経穴は経脈の流れの秩序をコントロールする要です。病気の治療や体調管理にツボを使うのはこのためです。
血(けつ)
体内を流れるあの赤い液体で血液とほぼ同じ意味です。血液のヘモグロビンが酸素の載せて運ぶように、血は気を乗せて運びます。血がないと気が経脈を巡ることができません。鉄道を使わない人がいるように、経脈を使わずに移動する気もあります。
気(き)
気は電車に乗る人です。人が鉄道をコントロールしているように、気は経脈の流れをコントロールしています。人体の生命活動はこの気の指令によって営まれています。また、気は経絡、経穴、血という物質に支えられて活動できるのです。物質的なバックボーンをもたない気は働くことができません。また認識することもできません。時に使われる「気を感じる」というのは、第六感的なものであったり、心の動きを指すもので(東洋)医学的な意味とは異なります。存在の有無を議論するものでもなく、東洋思想が生んだ一つの概念です。(関連≫気とは何か?)
結論
ツボ(経穴)は人体の循環システムの変化が最も現れやすいポイントであるために診断に使うことができます。また、循環システムを整える最良のポイントと言えます。このために、ツボは「疾病の際の反応点であり、診断点であり、治療点である」と言われています。鍼灸師は人体の鉄道システムを管理する鉄道マンと言えます。
診察法
四診と言われる4つの基本的な方法があります。
望診(ぼうしん)
視覚的に患者の病状を判断することです。患者が鍼灸院に入ってきた瞬間からこの望診は始まっています。たとえば、姿勢や顔色などを診ることです。
聞診(ぶんしん)
耳や鼻で病状を判断することです。患者の声、体臭などで状態を判断します。体臭というのは、病気によって特殊な臭いを発する場合があるからです。実際の場で鼻をクンクン動かすことはありません。
問診(もんしん)
会話をして病状や病歴を聞くことです。病状を時系列で整理したり、環境との因果関係を把握するために重要です。また、症状によって引き起こされている悩みを的確に知ることに役立ちます。
切診(せっしん)
「切る」という字を使いますが、切断という意味ではありません。「切」の元々の意味は「触れる」です。つまり、切診とは触診のことを言います。鍼灸ではこの切診が特に重要です。
なぜ効く?
鍼も灸も経脈の流れを整えることが目的です。東洋医学では(気血の)流れが滞ると病気に発展すると考えます。体内の循環システムを整えることによって、本来もっている治ろうとする力(自然治癒力)が発揮されます。鍼と灸は人体の循環システムを効率よく整えることができる道具です。
痛みが軽減する理由
痛みも流れが悪くなった時の発生します。そのパターンは2つあります。一つは渋滞が起こって気血が一箇所に溜まりすぎている時。もう一つは流れの勢いがなく気血が不足しているとき。前者を実痛(じつつう)、後者を虚痛(きょつう)と言い分けています。実痛の場合、治療は滞り箇所を散らすのが治療となり、虚痛の場合は、そこに流れを誘導させることが治療になります。
よくある誤解
高齢者が受けるもの
鍼は乳幼児から受けられます。刺す鍼では刺激が強いため、針状のものは使わず擦ったり撫でたりする道具を使うことがほとんどです。乳幼児に対して灸治療はあまり行われません。
効果の面でいうと、高齢者よりも若年者の方が有利です。それは、本来もっている自然治癒力のレベルが高いからです。そういう意味で若い方の方が鍼灸の効果をより実感しやすいと言えます。
痛い、熱い
痛すぎる鍼、熱すぎる灸では患者さんは逃げてしまいます。痛みも火傷もなく鍼と灸を扱うのが鍼灸師の仕事です。
鍼は精巧に作られ痛みが最小限になるように工夫されています(注射針とは構造が異なります)。種類もたくさんあり部位によって使い分けます。
灸も艾(もぐさ)の種類を使い分けて火傷にならないように熱をコントロールします。直接肌にすえる灸(透熱灸)は驚くほど小さいと思います。
鍼灸は痛さ熱さに耐えて受けるものではありません。むしろ、適切な刺激は気持ちよく感じます。
鍼の分類
刺す鍼
材質、太さ、長さはさまざまです。
材質はステンレスが最も一般的ですが金や銀の鍼もあります。金や銀は人体にやさしい素材ですが高級なため使い捨てには不向きで消毒も手間がかかります。
太さは細いもので直径0.12mm程度、太いもので直径0.24mm程度です(国内のラインナップ)。中国の鍼にはもう少し太いものもあります。
長さは短いもので1cm程度、長いもので9cm程度です。鍼の長さ分を刺すことはありませんので、1cm程度の鍼は1mm〜5mm程度の範囲。9cmでは8cm程度までしか刺しません(必ず鍼は余らせて使用します)。9cmの鍼を使うことは少なく特殊なケースです。5cm以内の鍼を使うことが多いと思います(刺入深度4cmまで)。当院では1〜4cmの鍼を多用しています(刺入深度3cmまで)。
皮内鍼と言われる数ミリ程度の鍼を刺したまましばらく放置するものもありますが、当院では使用しておりません。
刺さない鍼
子供に使う小児鍼が代表的です。押したり、ころがしたり、叩いたりします。刺さないので刺入痛は全くありません。子供が怖がらないように、鍼灸師の手中に隠して使うことが多いです。
てい鍼と言われる刺さない鍼もあります。小児に使ったり大人でも敏感な人に使用します。てい鍼を器用に使いこなし、あるゆる人に刺さない鍼で対処する鍼灸師もいます。
補足
鍼灸師は相性のよい鍼を選択しています。多種の鍼を使い分ける鍼灸師もいれば、少ない種類で柔軟に対応する鍼灸師もいます。道具の数と種類で鍼灸師の技術を計ることはできません。
灸の分類
皮膚にすえるもの
ツボの反応を積極的に利用する灸法でシャープな反応が期待できます。一般的に小さな灸を使用します(透熱灸)。火傷にならないように細心の注意を払います。厳密には1度の火傷=日焼け程度(赤くなるだけ)です。昔はイボ、ウオノメを治す目的で意図的に火傷になる灸がされていましたが、最近では見かけません。
皮膚にすえないもの
温めることを目的とした灸です。刺激と効果がマイルドです。ポワーッとした温かさを感じます。2つに分類すると、灸(火)と皮膚の間にものを入れて熱を緩衝させるものと、皮膚と灸を離して空気を介して温めるものがあります。
鍼と灸−効き方の違い
鍼の効果
気血の“流れ”を整えることが得意です。刺激深度を調節できることも有利な点です。鍼灸師の扱い方によって効果が千差万別に変わるという特徴があります。鍼をメインとし、灸をサブとする鍼灸師が多いです。
灸の効果
熱刺激であるために、温める効果を利用しやすいので冷えへの対応が得意です。逆に、適切に使用すれば炎症を抑えることもできます。皮膚表面への刺激になるので深いツボには使用しにくいことが短所です。長所は、家庭でも(種類によっては)行うことができるので、継続的な刺激を必要とする慢性病に有利なことがあります。