三陰交は「女三里(おんなさんり)」と呼ばれるほど、女性の疾患にはよく使われる代表的なツボです(三里のお灸は松尾芭蕉の『奥の細道』でも登場するツボ。江戸時代では庶民も知っていたと思われるツボ)。
「婦人科によいから三陰交を使う」という理由で使ってもある程度の効果は出せますが、三陰交というツボの特性を積極的に利用するとさらに効果的な治療が可能になります。
三陰交の作用範囲はとても広いのが特徴です。作用範囲の広さは便利でもありますし、どこに効くのかわかりにくいという欠点もあります。逆子の問題は、婦人科に集約されるものではありませんから、子宮周辺も視野に入れなければなりません。そういう意味で、広範囲に作用する三陰交は逆子の治療に向いています。しかし、問題点を絞り込める場合は、そこに作用を集めた方がよいと考え、当院では三陰交を避けることがあります。
「婦人科に効く」というくらいですので下腹部に作用します。また、忘れられることが多いのが胸への作用です。気が昇り、胸で滞っているものを下腹部まで引き下げてくれる作用があります。三陰交を上手に使うと、胸部と下腹部のバランスを取り戻すことができます。胎児の姿勢が上下逆という事実と照らし合わせると、この作用の意味を理解しやすいと思います。
忘れてはいけないポイントがもう一つありあす。至陰と比較すると体の深いところに作用します。じっくりじわじわと効きます。至陰の場合は施術中に体温の変化などをチェックしてますが、三陰交への作用はゆっくりなため、後日舌診などで効果をチェックすることが多いです。
三陰交は至陰と違って鍼が痛くありません。鍼、お灸、両方と3パターンの方法が選べます。当院では鍼を中心に使い、補助的にお灸で温めます(熱くないお灸)。
至陰が背面側により作用するのに対して、前面に作用するところが大きな違いです。また、至陰は上下のバランスを整え、全身の循環を活発にさせる働きが強いのに対して、三陰交は下腹部にエネルギーが集まるように働きます。この作用の違いを念頭に置きツボを選びます。
至陰も三陰交も適切な刺激をすると赤ちゃんが活発に動きますが、赤ちゃんを回転させるという作用があるというわけではなく、お母さんの体の状態が好転した結果、赤ちゃんが環境の変化を感じ動き出すのです。