灸の科学的根拠(至陰穴)

お灸がどのように作用して逆子が直るのか…というメカニズムは解明されていませんが、効果があるということは科学的に実証されています。ここでは一例としてアメリカの医学論文を紹介します。ただ、英語なので翻訳してみました(間違っていたら温かくご指摘ください)。

論文の概要

1998年にイタリア人医師フランシスコ・カルディニが逆子治療によく使われる至陰穴の有効性を中国の病院で調査しました。逆子を伴う33週目の妊婦さん260人をお灸をするグループとお灸をしないグループの2つに分けて頭位(正常)に戻る確率の違いを調べ、至陰穴のお灸が逆子矯正に有効であるということを科学的に実証しました。

論文

原文:Moxibustion for Correction of Breech Presentation

日本語版(訳:栗原誠)

Moxibustion for Correction of Breech Presentation
逆子(骨盤位)矯正のための灸療法

ランダム化比較試験(RCT)

Francesco Cardini, MD; Huang Weixin, MD

JAMA. 1998;280:1580-1584.

背景―伝統的な中国医学では、逆子からの転位を促進するために、BL67(至陰、足小指の外側の角に位置する)への灸療法(ハーブ燃焼によるツボ刺激)が行われています。その効果は、胎児の活動増加によるものかもしれません。しかしながら、この療法の効力を評価するランダム化比較試験はどこにもありません。

目的―胎児の活動増加と逆子矯正のために行うBL67(至陰)への灸療法の効果と安全性を評価するために。

計画―ランダム化比較試験、公開臨床試験

調査施設―中華人民共和国、江西省南昌の女性病院、九江の女性と子供の病院の通院患者

患者―通常妊娠で超音波で逆子と診断された妊娠33週目の初妊婦

処置―処置群としてランダムに選出した130の対象は、BL67(至陰穴)に艾(オオヨモギを指す日本語)ロールで7日間刺激し、逆子のままであれば、7日間の追加処置を加えた。対照群としてランダムに選出した130の対象は、通常のケアのみで逆子に対する処置は行わなかった。2週間の処置後も逆子のままである対象は、妊娠35週目から分娩までの間、いつでも頭位外回転術を受けることができる。

結果測定―1週間、毎日1時間、胎児の動作回数を母親が数えたもの。 35週目から分娩までの間、頭位になった数。

結果―処置群では平均48.45回の胎動を、対照群では35.35回の胎動を経験した(P<.001; 95% confidence interval [CI] for difference, 10.56-15.60)。 妊娠35週目の間では、処置群のうち130胎児のうち98例(75.4%)が、対照群の130胎児のうち62例(47.7%)が頭位となった(P<.001; relative risk [RR], 1.58; 95% CI, 1.29-1.94)。 対照群では24対象、処置群では1対象が頭位外回転術を受けた事実にも関わらず、対照群130胎児では81例(62.3%)のみ、処置群130胎児では98例(75.4%)も出生時に頭位だった。

結論―逆子を伴う妊娠33週目の初妊婦において、1〜2週間の灸治療が、治療期の胎動を活発にし、治療期と分娩時における頭位を増加させた。

補足

JAMA

The journal of the American Medical Association
アメリカ医学協会誌

ランダム化比較試験

治験及び臨床試験等において、データの偏り(バイアス)を軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に処置群と比較対照群に割り付けて実施し、評価を行う試験。RCTと略されることが多い。

専門用語の解説

オリジナルの論文を読む際にお役立てください。

Moxibustion 灸療法
breech Presentation 逆子、骨盤位
intervention group 処置群
control group 比較対照群
primigravidas 初妊婦
ultrasound diagnosis 超音波診断
fetus 胎児
delivery 分娩
external cephalic version 頭位外回転術
artemisia vulgaris オオヨモギ(学名)

論文を読んだ感想

中国では、逆子治療に至陰穴が使われることが多いようです。それに対して日本では、至陰に加えて三陰交を加えることが多いです。三陰交を加えた場合は数字に変化があるかもしれません。

この調査では、どの程度の熱量で何分程度施術したのかわかりませんので、詳しいところが気になります。科学的検証なので、妊婦さんの状態(体調)に関わらず同条件で行われた可能性があります。もし、一人一人に合わせた刺激を行ったならば、矯正の成功率はもっと高いものになったかもしれません。ただ、こういった科学論文では、条件をそろえることが大前提になるので、それを期待するのは難しいかもしれません。

33週目の妊婦さんで75%の矯正率なので、30〜32週目くらいからお灸を開始したら矯正率が80%を軽く越えると想像できます。とはいえ、33週の逆子の矯正率を調査したのは正解だと思います。これより早いと、自然に直るケースが含まれてくるので、処置群と対照群の差が出にくくなってしまうでしょうし、これより遅いと手遅れになり、やはり処置群と対照群の差が出にくくなると思われます。

この種の論文がこれから増えてくることを期待しています。当院では逆子の症例がたくさんありますが、いくら経験を積んでもこのような論文は書くことができません。なぜなら、対照群(灸療法をしないグループ)を設定することができないからです。科学的に信頼性の高いランダム化比較試験を行うには、この論文のように産科の協力が不可欠です。機会が巡ってきたときは積極的に関わりたいと思っています。

 

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