中庭のカクレミノ物語

当院のシンボルといえば中央の中庭とカクレミノです。

 

今回はこのカクレミノについて書きます。そもそも中庭(とは言っても小さなものですが)のある鍼灸院は全国でもここだけかもしれませんので、なぜ中庭を造ろうと思ったのかも含めて記します。

20年前

改めまして、院長の栗原です。

当院の開院は2003年です。21年前になります。個人的には、これだけの年月をやってこられただけで感慨深いものがあります。今ではあるのが当たり前ですが、患者さんが来なければいつ閉院してもおかしくありません。「来年はどうなるのだろう…」と緊張感は常にあります。実際、2020年は厳しい年になりました。新人を2人採用した直後にコロナ禍に突入してしまいました。

売上は経験したことがないほど低迷し、そのうえ増えた人件費を負担するという、あまり思い出したくない状況がありました。開業するときは「どんな困難があってもやめないぞ!」と決意していたので、やめる選択肢は全くありませんでした。その決意の証として中庭を造ったようなものです。なければないで、問題はありません。むしろ「お金のかけ方がおかしい」と言われる代物です。

ブロック造の鍼灸院

中庭の話をする前に、建物のことを書かないといけません。来院された方は一目瞭然ですがコンクリートブロックでできています。ブロック調の外壁を使っているのではなく、実際のブロックを積み上げて出来ています。中には鉄筋が入っていて空洞はコンクリートを流しこんであるので、地震が来ても崩れることはありません。東日本大震災ではかなり揺れましたが亀裂が入ることはありませんでした。

どう見えているかわかりませんが、一般的な木造建築と比較して高価な造りです。一般的な工法で建てる選択肢もあったのですが、あえてこの構造を選んだのは逃げられないようにするためでした。鍼灸院をやっていくにあたって経営が上手かどうかは重要ですが、それ以前に逃げたくなる心の弱さをどうにかする必要がありました。お金を借りて、建物を立てて、返済のために鍼灸院をしっかりやらなければならない、という状況に自分を追い込んだのです。

やらなければ借金が残る状況からスタートしました。これは、あくまでも私自身の弱さを強みに変えるための戦略であり、こんなリスクの高い方法は誰にもすすめません。もっと楽でストレスのない方法はいくらでもあります。

中庭というアイデア

当然ながら、設計は建築士にお願いしたわけですが、私は「緑を感じる施設にしたい」という要望を出しました。私も自分なりに間取りを考えて方眼紙に描き込んでいたのですが、設計士から渡された図面を見て驚きました。建物のど真ん中に中庭があったからです。「緑を感じる→中庭をつくる」というストレートな発想ですが、なかなかそうは来ないものです。少なくとも私なら考えません(お金がかかりそうですし…)。

私はこう思いました。自分じゃ思いつかないアイデアこそ採用すべきだと。ただでさえ高価な建物に中庭を造るのです。完全に若気の至りです。冷静に考えられるようになった今なら決断できません。ちなみに、このとき26歳でした。

誤解のないように書いておくと、設計士にそそのかされたのではありません。私の意見を取り入れてもらいながら繰り返し修正を加えていただきました。途中いくらでも変更できるチャンスがありましたが、私があえて中庭案を残したのです。

密かに表現した東洋思想

東洋医学には五行というものがあります。「五」というのは「木」「火」「土」「金」「水」です。これらは元素のようなもので、世界はこの5つの要素に分類できるという思想です。鍼灸理論も、こうした思想の影響を受けています。この5つを配置すると次のようになります。

 

このように、真ん中に「土」があります。この土が中庭です。提案をいただいたときは偶然でしたが、すぐに五行の世界観を表していることに気がつきました。だからこそ、捨てられない案となったのです。

陰陽論も取り入れています。入口から入ると、待合室がちょっとしたホールになっています。鍼灸院の待合室としてはかなり広いほうだと思います。このホールも中庭風に仕上げていて、中に入ったのに屋外っぽさを残しています。屋内なのに屋外っぽい、という両者が共存して分けられないことを表現しています。

また、待合室(ホール)は日の当たるところに、施術室は日の当たらないところに配置しています。その境界に例の中庭があります。建物は完全なスクエアなのですが、対角線を引くように、待合室と施術室を区切っています。施術室に案内されたあと方向がわからなくなるのは、施術室が横並びではなく、施術室によってベッドの向きも違うからです。テトリスのように空間の隙間を埋めるように施術室を配置しています。

この配置は実用面でも意味があって、デッドスペース(使えない空間)が生まれません。パズルを解くような気持ちになって施術室やスタッフルームを配置したことを覚えています。人の動線も施設をグルグル回るようになっています。上手く出来たと思ういっぽうで、待合室から施術室に移動する際に通る受付前は少し狭かったと感じています。人がすれ違うとき、あと10cm広かったらと感じます。設計当時は、こんなにたくさんの人が出入りしてくれると思っていなかったので、良い意味での読み違いです。間取り図はセキュリティ(空き巣が怖いので)のことを考えて秘密としておきます。

メンテナンス

丁寧に使っていても年月には勝てません。これまで何度も改修工事をしてきました。今回は、ここまで紹介してきた中庭のメンテンナスをレポートします。

中庭にはカクレミノが植わっているのですが、開業時からずっと一緒に過ごしてきました。ところが、昨年(2023年)の夏頃から、元気がなくなって秋には枯れてしまったのです。開業時から付き添ってくれていたパートナーでもあるので、私の心は意気消沈しました。見た目にも寂しくなってしまいました。

今年の2月、業者さんの助けを借りてカクレミノを引き抜きました。

 

カクレミノを引き抜く_01

 

植えたときは手首くらいの太さしかなかった幹がこんなに立派になっていました。根をしっかり掘り起こす作業。必要な作業ではありますが、感情的には整理できません。

カクレミノの根

 

日を改めて、別の職人さんが入ります。今度は、中庭の枠組みのメンテナンスです。木製の木枠は20年以上も経つと腐食が進んでいます。10年ほど前に一度修繕を行っているのですが、木がない状況をチャンスと捉え隅々まで行うことにしました。腐食が進みそうなところはくり抜いて、別の木材をはめ込みました。

中庭のメンテナンス(養気院)

 

塗料は雨に強いものになりました。色合いも微妙に変わりました。誰も気が付かないと思いますが、つや有りからつや無しになりました。以前より周りに馴染んでいます。

中庭の木枠に白い塗料を塗る(養気院)

 

これも気が付かれていないと思うのですが、コンクリートに塗装だけしてあったところにレンガ風タイルを貼りました。このレンガは軽くて見た目も本物そっくりでよいアイテムです。気に入りました。開業当時はこんなふうにコストをかける余裕もアイデアもありませんでした。

もともと、この施設は常に未完成という設定で、年数を重ねるたびに良くしていくつもりです。こうやってお金をかかられるのは、通院してくださる方やスタッフのおかげです。

中庭にミニタイルを貼る(養気院)

 

形状に合わせてカットしたりするので、とても根気のいる作業です。私にはできません。職人さんに感謝です。

ミニレンガタイルの加工

 

こんな感じに仕上げてくもらいました。一番下のレンガは地面に埋もれてしまう運命です。

中庭に使ったミニレンガタイル(養気院)

 

今回は、新しいカクレミノを植える前に土も入れ替えました。土のう10袋くらいになりました。買うにも捨てるにもお金がかかりましたが、長い目で見ると栄養たっぷりの土に入れ替た方がよいと思ったからです。

この木が入るところが施設のど真ん中になります。ピッタリの位置に植えてもらいました。

中庭の土を入れ替えてカクレミノを植える(養気院)

 

新しい土を入れてフラットになりました。

安心

はい、この通り。
ただ、葉っぱがだいぶ傷んでいて元気がないように見えます。もっと青々しているときれいなのですが、新しくやってきてくれたカクレミノですから、大事に育てます。

中庭に植えたカクレミノ

小石

前に使っていた小石を戻したのですが、スカスカです。この状態だと雨が降ったとき泥が飛び散ってガラスが汚れてしまいます。

中庭の小石

 

ホームセンターによさそうなのがありました! これを3袋購入。

榛名の軽石

 

敷き詰めると、こんなふうになるわけです。見た目も清潔感が出てよいと思います。雨が降っても泥が飛び散りません。

榛名の軽石を入れた中庭

大復活

葉っぱが黒いのは気になりますが、カクレミノが復活して大満足です。

養気院の中庭に入った新しいカクレミノ

 

4〜5月で葉っぱがすべて入れ替わりました。青々していてみずみずしいです。

 

試練

ところが事件が起こります。
7月になると40℃超えの灼熱がカクレミノにも襲いかかります。次々と葉焼けしていきます。これは、やばいよ、やばいよ。

カクレミノの葉焼け

 

慌てて日除けシートをネットで注文し屋上に上がって設置しました。直射日光は避けられるようになったにも関わらず、葉焼けの進行は止まる気配がなく、すべて落ちてしまいました。あと、一週間判断が早ければと悔やみました。

カクレミノという木はもともと日陰を好むので、激しく突き刺さる直射日光がこたえたのでしょう。移植したばかりなので、急激な環境変化に対応できなかったのだと思います。40℃超えはさすがに…。

中庭に設置した日除けシート(養気院)

再生

しかし、奇跡は起こりました。新しい葉が次々と出てきたのです。おそらく、葉は落ちてしまったのではなく、カクレミノが身を守るために意図的に落としていたのです。なんて賢い木なんだ。

カクレミノの新葉

 

この勢いは凄まじく、2、3週間でご覧のとおりです。まだボリュームはありませんが、勢いがすごく、新しい葉も毎日のように出てきています。この記事を書いている間にも成長しています。暇さえあれば見てニヤニヤしています。

中庭のカクレミノ

 

最近の様子がこちらです。緑がある鍼灸院が戻ってきました。上から光が差し込んでいるように見えますが、まだ日除けシートは残してあります。9月いっぱいまで必要かなと思っています。

養気院の中庭のカクレミノ

 

小さいけれどいいですね、中庭。
私が一番癒やされています。

ではまた。