院長の栗原誠です。
タイトルの通り、上手い鍼灸師ほど練習します。
音楽と同じです。同じ楽譜を手にしても演奏者によって奏でる音が異なります。感じ方も違い、心を揺り動かす幅も違いますし、記憶にどう残るかも異なります。音楽のことは詳しくないので、例え話はこれくらいにして、鍼灸の話に戻ります。
安全と上手さ
基本的な話になりますが、現場に立つ当院のスタッフ全員が国家免許を所有しています。互いにプロ同士の関係です。3年間の専門教育を経て国家試験に挑むので、それぞれ相応の知識と技術を有しています。ただ、現場で学ばなければいけないこと、現場でしか学べないことも多いのです。
学校で習得するものはとても大事です。ただ「安全に施術ができる」という技能を習得するものです。国家免許を持っているから危ないことはしませんよ、という意味においては安心してほしいわけですが、患者さんの悩みに対してどこまでお役に立てるかはまちまちです。
鍼灸院のウェブサイトには鍼灸師の経歴や肩書きが載っていいますよね。圧倒されるような肩書きや役職もあります。それはそれとしてすごいのですが、私自身が施術を受けようと思ったら、肩書きや役職は参考程度にとどめます。もっと重要なことがあります。
経歴に書けない実力
冒頭に書いた通り、上手い鍼灸師は練習をしています。練習量は経歴の行間を読んで想像するしかありませんが、読み取ることはむずかしいです。でも、一度触れられると、この鍼灸師なら安心して体をあずけられるとわかります。プロであっても一度受けてみないと実力はわからないのです。
逆に言えば、触れられたら実力がわかるということです。鍼灸は歴史の中で医学として発展してきたものですし、現代においても一翼を担うものです。鍼灸師の知識の深さは大事ですが、それだけで決まらないのが鍼灸です。鍼や灸というツールとしては極めてシンプルなものを使うので、体を扱うスキルが前面に出ます。
体を扱うというのは、自分自身のこともです。自分を上手にコントロールできない鍼灸師は患者さんの体によい変化をもたらすことはできません。
プロになると練習しなくなる?
免許をとってプロになってしまうと練習する機会が激減します。患者さんと接しながら経験を積んでいくという流れになります。プロになっても「練習」が大事なのですが「経験」という言葉に置き換えられてしまいがちです。練習しながら本番で経験を積んでいくからこそ上手くなるのです。
ただ、情報発信するときは注意するようにしています。文脈に気をつけないと「練習している」という表現は「未熟で患者さんの前に出られないレベルなんです」という印象を与えてしまうからです。実際に、そう思われていると感じた場面がありました。
練習している姿を見せている方としては、「こんなに練習しているのだから安心してください」と伝えたいのに、受け取る側は「練習しなければならないほど未熟な鍼灸師なんだ〜」と全く逆の印象になってしまうのです。若い鍼灸師ならなおさらです。
全国の仲間と一泊二日の合宿
繰り返しになりますが、上手い鍼灸師ほど練習しているのです。
先日、主催している団体で合宿を行いました。全国から20名ほどの鍼灸師が集まりました。練習課題を用意して2日間に渡って練習をしました。うちのスタッフも私も混ざって練習です。練習のほとんどは触診でした。
私は、鍼灸師は触診が9割と思っています。とはいえ、普段のセミナーはツボにフォーカスした内容なので、じっくりと触診のことを考える時間がありません。今回は、ツボのことは考えず触診に集中しました。
私たちが考える触診は、筋肉や神経の構造を把握するだけではありません。触れるの向こう側には、触れられる側があるわけですから、感覚が双方向に行き来するものとして考えます。患者役になることによって気づくことがたくさんあります。
こうした練習会は、個人的にも大切な時間でした。ふだんと違う雰囲気の中で、ゆったりとした気持ちで過ごすことができました。仲間との語らいも楽しかったです。ただ、ひとつ残念なのは、来年の3月にこの施設が閉鎖されてしまうことです。新しい会場を探して来年もまたやります。
和室っていいですよね。