岡本です。
鍼灸や漢方などに携わる人は、よく「根本治療」という言葉を使います。
「あなたが病院に行っても治らないのは、医師が表面だけしかみていないからであって、本当の原因に迫れていないからです、鍼なら/漢方ならその隠された原因を取り除くことができます」
というような意味で使われています。
わたしは、この言葉に懐疑的な立場をとっています。少なくとも、自分でその言葉を使うことは、今はもうありません。
告白すると、かつてはわたしも「根本治療」という文言を使っていました。
自分にもこのような過去がありますので、今現在、誰かが「根本治療」をうたっていたとしても、それを非難するつもりはありません。
根本治療という言葉は使いませんが、病院で見つけられなかった「別の要因」ならば見つけられる自信があります。そこに目をつけられるからこそ、鍼灸師という仕事が成り立っています。しかし、それはあくまでも、別の角度から見た症状の姿であって、わたしが見ているものが「根本の原因」かというと、そうとも限らないだろう、というのが正直なところです。
根本をたどりはじめるとキリがない
わたしが「根本治療」という言葉に懐疑的な理由がこれです。
明らかに外部からの衝撃によって起こる外傷を除いては、人間が悩まされる症状のほとんどは、症状とその原因が一対一の対応関係にありません。人はよくわからないうちに病気になり、(医療の介入がないならば)よくわからないうちに治っていく、というのが実際のところです。
わたしはよく患者さんに「背中のここが固まっているので首が痛くなります」というようなことを言います。適当に口からでまかせを言っているのではなく、実際に背中のある部分の硬さを取り除くと首が楽になる、という現象があります。その、人体の法則を利用して施術をしています。
では、なぜ背中が痛くなるのか。
手や腕の問題かもしれません。足に問題があるからかもしれません。
実際にそういうケースは多いので、手や足にも鍼をしたります。
では、なぜ手や足に問題が出てくるのか。
手仕事。
立ち仕事。
運動の不足。
長時間の勉強。
睡眠が足りない。
スマホの使いすぎ。
子どもを抱っこする。
マウスでの長時間作業。
家のクーラーが寒かった。
などなど、原因になりそうなものはいくらでも挙げられます。それらも要因を成しているといえるでしょうが、断定してしまえばウソになるでしょう。
その患者さんが週に1回、30分の鍼を受けに来られるとしても、それ以外の6日間と23時間30分の間、何をしているのか、わたしには限られた時間で断片的なことしか知ることができません。限られた時間で伺ったお話の内容と、その場で体を診せてもらって得た情報をもとに、とりあえずの原因を見定めることしかできません。
医療はすべてその場しのぎ
当たり前の話ですが、人は病気になったり、体が衰弱したりして、いつか死にます。
医療というのはそのときが来るのを一時的に遅らせたり、その間の苦痛を和らげるものでしかないので、「人はいつか死ぬ」という根本的な宿命を変えることはできません。
ですから、わたしは、不老不死にしてあげられるのではないかぎり「根本治療」という言葉を使わないほうがよいと思っています。
そういうわけなので、いつかわたしが「根本治療!」と言いはじめたら、不老不死の秘術を手に入れたということだと思って期待していてください。(施術料が3億円くらいになると思いますが)